神戸地方裁判所 昭和23年(行)51号 判決
原告 北浜長太郎
被告 兵庫県農地委員会
一、主 文
被告が昭和二十三年六月十九日別紙目録記載の土地についてなしたる「訴願人の申立を認容する、中川原村農地委員会は右土地を買收計画から除外しなければならない」旨の裁定に対し、同被告が同年九月三十日になした取消の処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨
主文同旨
三、事 実
原告はその請求の原因として、「訴外中川原村農地委員会は原告所有の別紙目録記載の土地(以下本件農地と略称する)に対し、右農地は原告が現に耕作の目的に供せず放置している不耕作地であるとして昭和二十三年四月二十四日自作農創設特別措置法により買收計画を立てたので、原告は異議を申立たが却下されたので更に同年六月三日訴願したところ、被告は原告の本件農地は耕作地であるとの主張を認め同月十九日訴願人の申立を認容する、中川原村農地委員会は本件農地を買收計画から除外しなければならない旨の裁決をした。しかるに被告は中川原村農地委員会から再審議の陳情があるやこれを受理しさきになした自作地であるとの認定は誤りであつて本件農地は不耕作地であるとし同年九月三十日右裁決を取消す旨の裁決をなし、該裁決書は同年十一月二十五日原告に送達された。しかし農地買收計画に対する行政廳えの不服申立手段としては都道府縣農地委員会に対する訴願が最終のものであつて、その裁決は訴願廳たる都道府縣農地委員会を覊束するのである。それにも拘らず右のように一旦本件農地は原告の耕作地であると認め買收計画から除外しなければならない旨の裁決をしながら、後に至つて右認定を根本的に復し右裁決を取消すような処分はできない。のみならず原告は昭和二十三年六月頃から多額の費用を投じて本件農地を手入れしその耕作に從事しているのであるから、これを不耕作地と認めさきになされた裁決を取消すような処分は違法である。よつて原告は右違法な取消処分の取消を求めるため本訴に及んだのである。」と述べた。(立証省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、「中川原村農地委員会が原告主張の日原告所有の本件農地に対しその主張の事由により自作農創設特別措置法に基き買收計画を立てたところ原告から異議申立があつたのでこれを却下したところ更に原告主張の日被告に訴願したので被告は原告主張の日右訴願を認容し原告主張のような裁決をしたこと、および中川原村農地委員会から再審議の陳述があつたので原告主張の日その主張のような理由で右裁決を取消したことは認める。しかしかかる処分をしたのは、被告は原告の訴願に対し現地調査をさせず書面審理だけで本件農地を原告の自作地と認めて裁決したのであるが、中川原村農地委員会の陳情によつて現地調査したところ全く不耕作地であつてさきになした裁決は事実の認定に重大な誤りがあつたから取消したのであつて右処分は違法でない。」と述べた。(立証省略)
四、理 由
中川原村農地委員会が原告所有の本件農地に対し不耕作地であるとして昭和二十三年四月二十四日自作農創設特別措置法の定めるところにより買收計画を立てたので原告が異議申立をしたところ却下され、更に同年六月三日訴願したところ、被告は原告の本件農地は原告の耕作地であるとの主張を認め同月十九日訴願人の申立を認容する、中川原村農地委員会は本件農地を買收計画から除外しなければならない旨の裁決をしたこと、その後被告は中川原村農地委員会の陳情に基きさきになした自作地であるとの認定は誤りであつて本件農地は不耕作地であるとなし、同年九月三十日右裁決を取消したことについては当事者間に爭がない。よつて右のように訴願廳がさきになした裁決を後に至つて自ら取消すことができるか否かについて判断するに、農地買收計画に対する行政廳への不服申立の手段としては都道府縣農地委員会に対する訴願が最終のものであつて、右訴願は市町村農地委員会が独立した農地買收計画においての爭につき上級廳としての権威ある裁断を請求する行政上の爭訟行爲である。從つてその裁決は判決の効力と同じように裁決をなしたる都道府縣農地委員会を覊束するのであつて、裁決廳は民事訴訟法第四百二十條第一項各号に規定する再審事由に相当するような重大な瑕疵があれば格別、爾後その不当又は違法なことを発見したとしても、自らこれを取消又は変更することができないものと解するのが相当である。けだしかかる取消、変更が許されるとすれば訴願に対する裁決があつたとしても、それは甚しく不安定なものであつて、行政上の爭を解決せんとする訴願の目的が達せられず、かえつて事態を紛糾させる結果ともなるからである。しかるに被告は敍上認定のように一旦原告の訴願事由たる本件農地は原告の自作地であるからその買收計画から除外されたいという請求を容れその旨の裁決をしておきながら、その後に至り現地調査したところ右裁決における認定は誤りであつて右農地は不耕作地であるとなし右裁決を取消したのであるが、これは被告が裁決をなすに当つて充分な審理を盡さなかつた爲に事実を誤認したというのに過ぎず、かかる理由は敍上再審に相当するような重大な瑕疵とは到底認められない。尤も都道府縣知事から都道府縣農地委員会の議決が法令に違反し又は著しく不当であるとの理由で再議に付せられれば再び議決をなさねばならないことは現在の農地調整法第十五條の二十八第一項(当時同法第十五條の十八第一項)の規定によつて明らかであるが被告の主張によるも本件の右取消処分が右法條に基く再議決でないことは明白である。果してしからば被告がなした右裁決取消処分は違法たるを免れない。よつてその取消を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)
(目録省略)